P・G・ウッドハウス


比類なきジーヴス
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『比類なきジーヴス』
森村たまき 訳・国書刊行会 刊

英国執事を語る際に欠かす事の出来ないP・G・ウッドハウスのジーヴスシリーズの邦訳が刊行されていますね。 一巻目は『比類なきジーヴス』です。英国執事ファンの方は是非とも座右の書になさる事を激しくお薦め致しますよ。 ワタクシなどはこの冒頭部分を書店で立ち読みし、次の瞬間速攻でレジに持って行ってしまったほどでございます。

「おはよう、ジーヴス」
「おはようございます、ご主人様」ジーヴスが答える。
 彼は紅茶のカップをベッドの横のテーブルにそっと置き、僕は目覚めの一口を啜る。完璧である。 いつもの通りだ。熱すぎず、甘すぎず、薄すぎず、濃すぎもしない。ミルクの量もちょうどいい。 また受け皿に一滴たりとも茶はこぼれていない。実にこのジーヴス、驚嘆すべき男である。 ありとあらゆる点でとてつもなく有能なのだ。(中略)
今までに使った執事は皆、僕が眠っているうちにどすどす侵入してきては僕を苦しめたものだ。 しかしジーヴスは僕が目覚めるのを一種のテレパシーで感知するらしい。 僕がこの世に復活した、きっかり二分後に、彼はカップを手にふわりと部屋に入ってくる。 一日の始まりに大きな差がつくというものである。

(上掲書 P5より引用)

しかし、完璧なモーニングティーが淹れられるだけがジーヴスの実力ではございません!
彼が仕える御主人様バーティやその悪友ビンゴがもたらす厄介な(あるいはしょうもない)事件をさくっと解決、 さらに女性の扱いも巧みな様子。ああ何と素晴らしき執事なのか!
  こんな有能なジーヴスを独り占めしているバーティには正直嫉妬さえ覚えてしまうのですが、 この作品の最後の最後では流石に彼に同情しました。あれはいくらなんでも可哀相なのではあるまいか(笑)。
学校時代の悪友に散々振り回されて損な役ばかり引き受けてしまうバーティーに幸あれかしと願うばかりでございます。 彼だってオクスフォード出で詩をばんばん引用できる教養もあるし、 日々遊んで暮らせるだけのお金だってある優雅な独身紳士なのにどうしてこんなにおマヌケ様に見えるのかしら。 やはり比較対象がジーヴスだからか?
それにしてもジーヴスはメイベル嬢とその後どうなったんでしょう。気になって夜も8時間しか眠れませんよ(笑)。

続刊は6月、10月に発売予定。
ジーヴスの冴え渡る頭脳とバーティーのお間抜け振りに早く再会したいです。

(2005/04/11)

ジーヴズの事件簿

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『ジーヴズの事件簿』
P・G・ウッドハウス 著、岩永正勝・小山太一 訳、文藝春秋 刊

ウースター様がここまで物事に執着なさるのは、めったにないことです。私がずばり不承知と申し上げた藤色の靴下をどうしてもお召しになりたいと言い張られたとき以来ではありませんか。しかし、あの件は私がうまく処理いたしましたし、本件も最後には満足の行く方向に持って行けることには何の不安もありませんでした。ご主人とは馬のようなものであって、調教が肝心なのです。紳士に仕える紳士のうちにも、調教のこつを心得ているものもおれば、いないものもおります。幸いなことに、私はこの点ではなんら不足するものはありません。

(同書 P324 「バーティ君の変心」より引用)


『比類なきジーヴス』と重複しているのは第二話から九話まで。読み比べてみるのも興味深いかと。
個人的な印象は文春版の方がくだけた語り口で読みやすいように思いますが、バーティに対する愛情は国書刊行会版の方が上かな?とも感じます。森村訳の方が可愛気のあるアホっぽいんだよね(※褒めてます)。
「ジーヴズの初仕事」、「バーティ君の変心」、「ジーヴズと白鳥の湖」、「ジーヴズと降誕祭気分」は今のところ国書刊行会版とはだぶっておりません。
そしてジーヴズシリーズの原型と云える「ガッシー救出作戦」も入っているのでお買い得ですよ〜。

今回の収録作品中で一番印象に残っているのはジーヴズ自身が語り手となる「バーティ君の変心」。バーティの唐突な決意にまつわる事件の顛末とジーヴズの絶妙な手腕を描いております。
藤色の靴下ってのは「ジーヴズと駆け出し俳優」でのあの靴下の事か。意外と執念深いのねジーヴズってば(笑)。自分の選んだものでないと主人には身につけさせたくない、そんな切ない男心が切実に伝わってきますわ〜。しっかし、蔭でバカ呼ばわりしてる(※「ジーヴズとグロソップ一家」参照)かと思えば、今度は馬扱いですか馬!
ジーヴズがバーティをアホ呼ばわりするのは愛情の発露なんでしょうけど、馬はいくらなんでも酷いんじゃ……。
ま、ジーヴズ自身の口からのお惚気は愉快極まりないのですけども。以下はお惚気の数々でございます。

知性的には取るに足らないウースター様ですが、ウースターというお名前の響きは無限の可能性を秘めています。(P328)
ウースター様は、ただひとつを除くすべての好ましい資質を備えたお若い方です。もっとも、そのひとつとは頭脳のことではありません。(中略)非常事態に遭遇なさると、ウースター様はすぐに気弱な笑みを浮かべて目の玉を飛び出させてしまわれます。貫禄といったものが皆無なのです。(P334)
あの方のお顔は、外から読めないような謎めいたものではありません。逆に、ちょっとした心の揺れも刻々と分かる、澄み切った水のようなお顔なのです。(P338)

どうですよ、この愛されっぷり!
いいなぁ、バーティーはジーヴズに熱愛(←?)されてて。心底羨ましいですわ(溜息)。
ちょっとどころでなくかなりジェラシーを感じます(笑)。

(2005/06/19)

よしきた、ジーヴス

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『よしきた、ジーヴス』
P・G・ウッドハウス 著、森村たまき 訳、国書刊行会 刊

 彼はいまや立ち上がっていた。手には白い物体を持っている。それを見て僕は、家庭内の危機、ふたりの屈強な男たちの不幸な意志の衝突が再び出来したことを理解したのだった。そしてまたバートラム氏は、戦士であった祖先を思い己が権利のために戦わずば、今まさに打ち挫かれんとしているのである。(中略)
 僕は強硬な姿勢に出ようとした。
「なんだい? ジーヴス」僕は言った。言い方はもの柔らかだったが、僕の目を注意深く観察すれば鋼鉄のひらめきがほの見えたはずだ。ジーヴスの知性を崇拝する点において僕は誰に一歩譲るものではないが、彼を養っているその手に対して命令を下すという彼の性癖には抑制が加えられねばならない。このメスジャケットは僕のハートのごくごく近くに位置するもので、アジャンクールの戦いにおける偉大なるド・ウースター殿の熱情をもって、こいつのために戦ってやる用意が僕にはあるのだ。

(同書 P18〜19より引用)


待望の国書刊行会版ジーヴスの2冊目です。

戦士としての祖先を誇りにし、その功績に思いを馳せるのならば、そろそろ君の辞書には「策略」の文字が似合わない事を理解した方がいいんじゃないかバーティ君よ……(遠い目)。
負ける気がしないとか、この勝負貰った!とか、全て自分の目論見通りに事が進むぜとかの台詞はバーティには全く似合いませんが、ここまで見事な負けっ振りを見せて貰えるとは思いませんでしたよ(笑)。
連作短篇に比べるとやや展開に冗長さが感じられますが、バーティがフランスで誂えた金ボタンの白いメスジャケットのネタを引っ張って300ページ程の長篇が成立するのが凄いです(笑)。
いっやぁ、このジャケットが余程気に入らなかったんだねジーヴス。バーティもアホの割には服装に関してはちょいと意固地な所があって決して譲らないものですからふたりの間の緊張感には読んでいるこちらもドキドキですよ! そして毎度のお約束通りに、このジャケットを巡ってふたりの間には険悪なムードが流れてしまい、バーティは友人たちの恋愛問題やダリア叔母さんがもたらす厄介事をジーヴスの助力無しで片付けなくてはならない羽目に陥ってしまいます。どうするどうなるバーティ! ウースター一族の名にかけてこのトラブルを見事解決できるのかバーティ!(絶対無理)
バーティの友人ガッシー(オーガスタス・フィンク=ノトル氏)とマデライン・バセット嬢、タッピー(ヒルデブランド・グロソップ氏)とアンジェラ・トラヴァース嬢の複雑な恋模様(勿論このもつれにはバーティの手腕があます所無く発揮されてます・笑)、果てはダリア叔母さんの金銭問題、至高の才能を持つフランス人シェフ、アナトールの進退問題まで加わって、さてさてこのもつれにもつれた難問をジーヴスがどのような手腕で解決してくれるのか?と興味津々で読み進めました。
ラストでは毎回バーティを哀れに思ってしまいますが、今回はトラヴァース家の執事セッピングスからある衝撃の事実を知らされるシーンには涙を禁じえなかったですよ……。うわーバーティってば可哀相。いい歳してお風呂でアヒルのおもちゃと戯れていても、許す!許すよ!(←何様か)

前作のアガサ伯母さんも凄かったですが、今回登場するダリア叔母さんもかなり強烈ですね〜。バーティを盛大にバカ呼ばわりする豪傑でございますよ。その娘たるアンジェラ嬢の舌鋒の鋭さもなかなかのもの。彼女の台詞にある「イギリス六大バカ」(P190)の中にはバーティが含まれているのかどうかが激しく気になります(笑)。
バーティの周りにいる女性はタイプは違えど皆傑出した女性ばかりなのかしら。
まったく、よく女性不信にならないもんだと感心しておりますよ〜。

(2005/07/05)

それゆけ、ジーヴス
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『それゆけ、ジーヴス』
森村たまき 訳 国書刊行会 刊

「もう嫌だ、ジーヴス!」僕は言った。「もう二度とこんなのは嫌だ!」
「さりながら、ご主人様──」
「もう絶対に嫌だ!」
「さりながら、ご主人様──」
「さりながら、ご主人様ってのはどういう意味だ? 何が言いたいんだ?」
「さりながら、ご主人様、リトル様は不撓不屈の精神をお持ちの若紳士であらせられます。そしてまた、かような申しようをお許し願えますならば、あなた様はと申しますと屈服なさりやすく、恩義を施して差し上げる方のご性格でいらっしゃいますゆえ──」
「君はまさかビンゴの奴が永久不変の鉄面皮でもって、またもや僕をなにかしらのいまいましい計画に巻き込むつもりだろうって思ってるんじゃあるまいな?」
「さような蓋然性はきわめて高いと申し上げねばなりません、ご主人様」

(同書 P312「ビンゴ救援部隊」より引用)


国書刊行会版三冊目。
そろそろ飽きが来る頃かしらと思いきや、買ってすぐに読み始めてあっと云う間に読了。どうやら中毒になりつつあるようです(笑)。

リトル夫妻の仲睦まじさに影を落とすロージーの原稿の秘密、名シェフアナトールがトラヴァース家に雇われた経緯、ダリア叔母さんの雑誌の危機、そして(またしても)絶体絶命のバーティ。
第9章 「ビンゴ救援部隊」でその謎の全てが明らかに!(※やや誇張あり)
引用部分はバーティ君がベイビーだんな様((C) リトル夫人)ことビンゴの押し付ける無理難題(今回は不法侵入プラス窃盗)に激しく立腹、とうとう絶縁宣言か?な場面です。
ビンゴ本人に向かって云いなさいよバーティ……とツッコミつつ、ジーヴスの分析の容赦無さに拍手。
ドタバタさにかけては今回の収録作ではこれと7章の「刑の代替はこれを認めない」が双璧を成していると思います(笑)。グロソップ一族が出てくると話がややこしくなって大変面白いのですが、バーティが不当な扱いを受けるのでちょっと可哀相〜。
そして今回のメインはニューヨークの愉快なおバカたちでしょうか。どこまで類は友を呼ぶのでしょう。やはり朱に交わればアホになるのでしょうか。英国を出て海を渡ってもバーティの周りでは豪華絢爛たるアホ絵巻が繰り広げられ、その展開には爽やかさすら感じてしまう程です。大西洋の向こうにもおバカの王国があったのだなぁ(しみじみと)。
アメリカ篇では「伯母さんとものぐさ詩人」が好き。

さて毎回毎回ここの感想文でバーティをバカだのアホだの云って参りましたが、この本を読んで彼への認識を改めました。いやもうバカが付くほどお人好しだなバーティ……。
あと、ある種のタイプ(アホを指導鞭撻する事に情熱を燃やすタイプ。逆マイフェアレディって感じ?)の女性には非常にもてるんですねバーティってば。意外と云ったら失礼だろうか(笑)。やっぱし顔が良いのかな〜。
でもあれだ、紫の靴下やチェックのスーツはまだ許せても口髭だけは許せません! 絶対似合わないからやめとけやめとけ!(笑)

ジーヴスが御主人様を大切にしているさまは、まさに掌中のバカ 珠と云った感じです。
バーティよ、いついつまでもジーヴスに慈しまれて幸せに過ごしてくれたまい……(合掌)。

(2005/11/17)

エムズワース卿の受難録

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『エムズワース卿の受難録』
P.G.ウッドハウス 著 、岩永 正勝 ・小山 太一 編訳、文藝春秋 刊

 ロード・エムズワースは大きく溜息をついた。うんざりして息子を眺めやり、いくらフレディがその道の名人だとはいえ、こう若い者が次から次へと騒動を起こす力を持っているのはたまらんと嘆いた。(中略) うんと昔、まだほんの子供だったころ、ご多分にもれず空想好きだった伯爵は、これほど古い家柄なのにどうしてうちには一家伝来の呪いがないんだろうと悔しがったことがある。思いきや、今ごろになって呪いの生みの親に自分がなろうとは。

(同書 P51より引用)


イングランドはシュロップシャーのブランディングズ城に住む夢見がちで綿菓子のような頭脳を持つ第九代エムズワース伯爵は、平穏な生活と美しい庭をこよなく愛する人物なのだが、彼の領内に持ち込まれるのはいつもいつも騒動ばかり。のどかと云う言葉とは無縁な老伯爵の田園生活は、トラブルメイカーの息子や恋に身を焦がす姪たち、恐るべき妹の襲来で御難続きのものになる……。

おっとりのほほんとした愛くるしさを持つ老伯爵、ロード・エムズワース。
自分の城たるブランディングズで豚やカボチャや美しい花々とたわむれつつ静かな暮らしをしたいだけなのに、周りの状況がそれを全く許してはくれないのです。ああ、彼こそを喜劇 悲劇のヒーローと呼ばずして何と呼びましょうか!
しかし、最強の妹レイディ・コンスタンスや一家伝来の呪い扱いされている(笑)次男フレディに振り回されてあたふたおたおたしている姿はこの上なくキュートなんですけども。
そして、彼を翻弄するのは血縁関係者ばかりではありません。やり手な庭師アンガス・マカリスターのスコットランド魂との熱き攻防戦や、有能執事ビーチの去就問題にもそのふんわりとした脳味噌を悩ませているのです。
最後にはまとまるべきところにまとまるとわかっていても、毎度毎度起こる事件のたびにロード・エムズワースの運命に気を揉んでしまいます。ああクラレンス、あなたってなんて罪な人……(笑)。
そんな彼の活躍(?)を収めた短篇集ですが、個人的に一番のお気に入りはちょっと長めの「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」です。
ロード・エムズワースの孫、ジョージが持ち込んだ一挺の空気銃が住人たちに与えた恐ろしい影響、謎は謎を呼び、平和だったブランディングズ城に疑惑と疑念の嵐が吹き荒れる……。(※若干誇張あり)
この話で一番の被害者はやっぱりルパート・バクスターなんだろうなぁ。あんまり可哀相じゃないんだけど(笑)。

収録作品のどれもおかしくて好きな話なのですが、たったひとつ不満を挙げさせて戴けるのならば、ブランディングズ城のいとやんごとなき貴婦人、「ブランディングズの女帝」陛下の出番が思っていたよりも少なかった事でしょうか。ちょっとどころではなく非常にがっかりです(嘆息)。 彼女の出番がたくさんあるであろう長篇作品も読んでみたいなぁ。

特別収録の「天翔けるフレッド叔父さん」は、エムズワース卿ものとの関わりが深いのだそうで、豪快で破天荒なフレッド叔父さんが巻き起こす珍事件とそれに巻き込まれる甥のポンゴの苦悩を描いた作品です。こちらも爆笑必至。

トラブルメイカーたちが繰り広げる騒動の数々がみっしりと詰まった大変に愉快な一冊です。
年末年始のお休み中、ごろごろしながらの楽しい読書に最適かも?

(2005/12/31)

ウースター家の掟

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『ウースター家の掟』
P・G・ウッドハウス 著、森村たまき 訳、国書刊行会 刊

「愛する叔母さんのためだとしても、たいした大仕事過ぎるって僕には思えるんだ。僕は断然そんなことは夢にも……」
「ええ、そう、そうね。あんたはやるのよ。なぜってやらなきゃどんな目に遭うかはあんたにはよくわかってるんだから」彼女はここで、意味ありげに言葉をとめた。「ここまではわかったかな、ワトソン君?」
 僕は何も言えなかった。彼女が言わんとするところが何であるかを説明してもらう必要はなかった。ビロードの手を鉄の手袋に包んで──いや、逆だったか──彼女がこんなふうに言うのはこれがはじめてではなかったからだ。

(同書 P45より引用)


国書刊行会版4冊目のジーヴスシリーズは長篇の2冊目です。
前の長篇『よしきた、ジーヴス』(→感想)がちょっと冗長に感じられたので、今回はどうかなぁと思っておりましたが、窃盗と奪還と冤罪のスリルとサスペンスがあって、非常に楽しく読めました。面白かった〜。

「おお、汝バートラム・ウースター、受難の泥沼に漕ぎいでし気高き若紳士よ!」
ってなフレーズで始まる自作のポエム(?)を捧げたくなる程度にはワタクシはバーティを応援しておりますが、変に律儀で、とんでもない友人に対してさえも義に篤いバーティの言動は「ウースター家の掟」(※訳者あとがき参照のこと)に則った結果だったのですね。どうしてあんなリスクばかり高くて得るものがナッシング(ハイリスク・ノーリターンって奴だ・笑)な友人関係を続けているのかと常々不思議に思っていたのですけれど、これでようやく謎が解けました。家訓じゃ仕方がございません。所謂‘noblesse oblige’と同じですよね? 位高きは徳高くあるべきって事なのね!(←そうなの?)

さて、今回のバーティの災難は18世紀製アンティークのウシ型クリーマーから幕を開けます。
女傑なダリア叔母さんの夫、トム叔父さんが御執心のこのクリーマーを発端とし、『よしきた』でなんとかまとまった筈の友人ガッシー(オーガスタス・フィンク=ノトル氏)とマデライン・バセット嬢の婚約破談の危機、バセット嬢の従姉妹ステファニー・ビング嬢と旧友ハロルド・ピンカー副牧師との障害多き熱愛(笑)、茶皮の手帖と巡査のヘルメットと「ユーラリー」の秘密、名シェフアナトールの行く末が複雑に絡まりあい、またもやバーティは奔走する羽目に陥ります……と云うか、ダリア叔母さんからもスティッフィー嬢からも必要以上に無理難題を強要される 頼りにされているバーティにはやはり女難の相があるのではないかと(涙)。

今回はジーヴスとバーティは深刻な仲違いをしていないので(笑)、ジーヴスは要所要所でちゃんと名案を出してくれる上、ステッフィー嬢の部屋を家捜しした際には思いもかけない付き合いの良さを発揮しています。戸棚の上のジーヴス……なんてスバラシイ!(笑)
濡れ衣を十二単並みに着せられても雄々しく立ち上がるバーティの姿には思わず喝采を送りたくなりました。ワタクシは彼のこれからについてこう願わずにはいられません。

ああ神よ、彼に艱難辛苦を与えたまえ、ただし妙齢の女性からの難題は控えめに。(←鬼か)

豪傑の誉れ高いダリア叔母さんがバーティに向ける意外な(←失礼)思いやりの深さも今回の読みどころのひとつ。バーティとダリア叔母さんそれぞれの気高い決意と、晩餐メニューについての話し合いのあたりではちょいとホロリときましたよ。ダリア叔母さんってば、なんだかんだ云ってても(「ブサイクちゃん」、「若いろくでなし」等)バーティの事を好いていてくれているのねぇ……。
ウースター一族の結束の固さに涙しつつ本を閉じることができました。
感動を有難う、ダリア叔母さん!(あれれ?)

本筋とは関係ありませんが、『エムズワース卿の受難録』(→感想)に出てきたフレディに関しての言及があったのが嬉しかったー。

(2006/03/31)


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