●比類なきジーヴス |
![]() 『比類なきジーヴス』 英国執事を語る際に欠かす事の出来ないP・G・ウッドハウスのジーヴスシリーズの邦訳が刊行されていますね。
一巻目は『比類なきジーヴス』です。英国執事ファンの方は是非とも座右の書になさる事を激しくお薦め致しますよ。
ワタクシなどはこの冒頭部分を書店で立ち読みし、次の瞬間速攻でレジに持って行ってしまったほどでございます。 「おはよう、ジーヴス」 (上掲書 P5より引用) しかし、完璧なモーニングティーが淹れられるだけがジーヴスの実力ではございません! 続刊は6月、10月に発売予定。 |
●ジーヴズの事件簿 |
『ジーヴズの事件簿』 ウースター様がここまで物事に執着なさるのは、めったにないことです。私がずばり不承知と申し上げた藤色の靴下をどうしてもお召しになりたいと言い張られたとき以来ではありませんか。しかし、あの件は私がうまく処理いたしましたし、本件も最後には満足の行く方向に持って行けることには何の不安もありませんでした。ご主人とは馬のようなものであって、調教が肝心なのです。紳士に仕える紳士のうちにも、調教のこつを心得ているものもおれば、いないものもおります。幸いなことに、私はこの点ではなんら不足するものはありません。 (同書 P324 「バーティ君の変心」より引用) 『比類なきジーヴス』と重複しているのは第二話から九話まで。読み比べてみるのも興味深いかと。 今回の収録作品中で一番印象に残っているのはジーヴズ自身が語り手となる「バーティ君の変心」。バーティの唐突な決意にまつわる事件の顛末とジーヴズの絶妙な手腕を描いております。 知性的には取るに足らないウースター様ですが、ウースターというお名前の響きは無限の可能性を秘めています。(P328) どうですよ、この愛されっぷり! |
●よしきた、ジーヴス |
『よしきた、ジーヴス』 彼はいまや立ち上がっていた。手には白い物体を持っている。それを見て僕は、家庭内の危機、ふたりの屈強な男たちの不幸な意志の衝突が再び出来したことを理解したのだった。そしてまたバートラム氏は、戦士であった祖先を思い己が権利のために戦わずば、今まさに打ち挫かれんとしているのである。(中略) (同書 P18〜19より引用) 待望の国書刊行会版ジーヴスの2冊目です。 戦士としての祖先を誇りにし、その功績に思いを馳せるのならば、そろそろ君の辞書には「策略」の文字が似合わない事を理解した方がいいんじゃないかバーティ君よ……(遠い目)。 前作のアガサ伯母さんも凄かったですが、今回登場するダリア叔母さんもかなり強烈ですね〜。バーティを盛大にバカ呼ばわりする豪傑でございますよ。その娘たるアンジェラ嬢の舌鋒の鋭さもなかなかのもの。彼女の台詞にある「イギリス六大バカ」(P190)の中にはバーティが含まれているのかどうかが激しく気になります(笑)。 |
●それゆけ、ジーヴス |
![]() 『それゆけ、ジーヴス』 「もう嫌だ、ジーヴス!」僕は言った。「もう二度とこんなのは嫌だ!」 (同書 P312「ビンゴ救援部隊」より引用) 国書刊行会版三冊目。 リトル夫妻の仲睦まじさに影を落とすロージーの原稿の秘密、名シェフアナトールがトラヴァース家に雇われた経緯、ダリア叔母さんの雑誌の危機、そして(またしても)絶体絶命のバーティ。 あと、ある種のタイプ(アホを指導鞭撻する事に情熱を燃やすタイプ。逆マイフェアレディって感じ?)の女性には非常にもてるんですねバーティってば。意外と云ったら失礼だろうか(笑)。やっぱし顔が良いのかな〜。 でもあれだ、紫の靴下やチェックのスーツはまだ許せても口髭だけは許せません! 絶対似合わないからやめとけやめとけ!(笑) ジーヴスが御主人様を大切にしているさまは、まさに掌中の |
●エムズワース卿の受難録 |
『エムズワース卿の受難録』 ロード・エムズワースは大きく溜息をついた。うんざりして息子を眺めやり、いくらフレディがその道の名人だとはいえ、こう若い者が次から次へと騒動を起こす力を持っているのはたまらんと嘆いた。(中略) うんと昔、まだほんの子供だったころ、ご多分にもれず空想好きだった伯爵は、これほど古い家柄なのにどうしてうちには一家伝来の呪いがないんだろうと悔しがったことがある。思いきや、今ごろになって呪いの生みの親に自分がなろうとは。 (同書 P51より引用) イングランドはシュロップシャーのブランディングズ城に住む夢見がちで綿菓子のような頭脳を持つ第九代エムズワース伯爵は、平穏な生活と美しい庭をこよなく愛する人物なのだが、彼の領内に持ち込まれるのはいつもいつも騒動ばかり。のどかと云う言葉とは無縁な老伯爵の田園生活は、トラブルメイカーの息子や恋に身を焦がす姪たち、恐るべき妹の襲来で御難続きのものになる……。 おっとりのほほんとした愛くるしさを持つ老伯爵、ロード・エムズワース。 収録作品のどれもおかしくて好きな話なのですが、たったひとつ不満を挙げさせて戴けるのならば、ブランディングズ城のいとやんごとなき貴婦人、「ブランディングズの女帝」陛下の出番が思っていたよりも少なかった事でしょうか。ちょっとどころではなく非常にがっかりです(嘆息)。 彼女の出番がたくさんあるであろう長篇作品も読んでみたいなぁ。 特別収録の「天翔けるフレッド叔父さん」は、エムズワース卿ものとの関わりが深いのだそうで、豪快で破天荒なフレッド叔父さんが巻き起こす珍事件とそれに巻き込まれる甥のポンゴの苦悩を描いた作品です。こちらも爆笑必至。 トラブルメイカーたちが繰り広げる騒動の数々がみっしりと詰まった大変に愉快な一冊です。 |
●ウースター家の掟 |
『ウースター家の掟』 「愛する叔母さんのためだとしても、たいした大仕事過ぎるって僕には思えるんだ。僕は断然そんなことは夢にも……」 (同書 P45より引用) 国書刊行会版4冊目のジーヴスシリーズは長篇の2冊目です。 「おお、汝バートラム・ウースター、受難の泥沼に漕ぎいでし気高き若紳士よ!」 さて、今回のバーティの災難は18世紀製アンティークのウシ型クリーマーから幕を開けます。 今回はジーヴスとバーティは深刻な仲違いをしていないので(笑)、ジーヴスは要所要所でちゃんと名案を出してくれる上、ステッフィー嬢の部屋を家捜しした際には思いもかけない付き合いの良さを発揮しています。戸棚の上のジーヴス……なんてスバラシイ!(笑) ああ神よ、彼に艱難辛苦を与えたまえ、ただし妙齢の女性からの難題は控えめに。(←鬼か) 豪傑の誉れ高いダリア叔母さんがバーティに向ける意外な(←失礼)思いやりの深さも今回の読みどころのひとつ。バーティとダリア叔母さんそれぞれの気高い決意と、晩餐メニューについての話し合いのあたりではちょいとホロリときましたよ。ダリア叔母さんってば、なんだかんだ云ってても(「ブサイクちゃん」、「若いろくでなし」等)バーティの事を好いていてくれているのねぇ……。 本筋とは関係ありませんが、『エムズワース卿の受難録』(→感想)に出てきたフレディに関しての言及があったのが嬉しかったー。 |