須賀しのぶ


帝国の娘
画像クリックでamazonへ 画像クリックでamazonへ

『帝国の娘』前編 後編

猟師の娘として育った十四歳の少女カリエ。
エディアルドと名乗る男に攫われた彼女は、重病の皇子アルゼウスの身代わりとして次期皇帝の地位を三人の皇子と争う事になる…。


「流血女神伝」開幕篇。
十四歳の少女が主人公なのに、彼女を襲う運命がこんなに苛酷でいいのか?と 思いつつもページをめくらせる手が止まりませんでした。面白かった!
腐敗が進んだルトヴィア帝国内部で権力争いに巻き込まれた少女を主人公に、 彼女を取り巻く人々や状況を骨太に描いていて、舞台となる国にしても登場人物にしても興味がどんどん広がっていきます。
展開が早いのに登場人物の心理描写が丁寧で、物語が立体的に紡ぎだされている所も著者の筆力の凄さだな、と感嘆。
カリエだけでなく、登場人物の殆どがままならない運命に歯噛みしているような状態なのですが、 それぞれが誇り高く自分の進むべき道を顔を上げて進んでいこうとする様子がとても好ましかったです。
久し振りに夢中になれるシリーズと出会えました。まだまだ物語は始まったばかりで先は長いのですけれど、 続きを読むのが楽しみでたまりません。

(2004/11/21)

砂の覇王
画像クリックでamazonへ

『砂の覇王』全9巻

エディアルドと共にカデーレを脱出したカリエ。
旅の途中で高熱を出したエディアルドを休ませる為に一夜の宿を求めた民家では、 思いもかけない罠が彼女を待ち受けていた…。


今回の主な舞台となるエティカヤを中心に、ルトヴイア、ユリ・スカナと三国の内情が徐々に明かされていきます。
どの国も一枚岩ではなく、かろうじて均衡を保っている情勢の危うさが物語の緊迫感をよりいっそう深めていました。 かと云って政治色に傾くでなく面白く読めてしまうのは著者のバランス感覚の賜物ですね。
奴隷となってしまったカリエとエディアルド、苦悩を抱えながらも奮闘するドミトリアスとグラーシカ、 謎めいた言動のサルベーンにラクリゼなど、でお馴染みの面々のその後も言及されていて嬉しかったのですが、 新規参入の登場人物も負けず劣らず魅力的でした。バルアンの後宮の女性達、 イーダル王子やタウラ(ユリ・スカナの方々は美人ばかりで読んでいて楽しいな!)、 海賊トルハーンや副長ソード、ギアス海佐ら海の男達。大所帯になりながらもそれぞれの表情が浮かび上がってくるような豊かで 賑やかな文章をわくわくしながら読み進めました。
全巻を通じて心に残ったのはヒカイ将軍とラハジル・ジィキのエピソードで、 この二人とバルアンの絡ませ方がとても印象的でした。カリエ達メインキャストの動向よりも、 彼らの過去の経緯の方が気になって仕方なかった自分は読者として間違った道を進んでいたような気がします…などと云う 個人的な話はともかくとして、人と神との関わりは次回作以降でまた語られるのでしょうか。その辺がとても気になっています。
奴隷から始まるカリエの変幻自在でコスプレ満載な流転人生(笑)のとりあえずの決着のつけ方もお見事。
仮にも十代の女の子が主人公の物語を読んでいて、不撓不屈とか満身創痍とか捲土重来とかの言葉が思い浮かぶのはどうかと思うんですが、実際そうなんだから仕方がない(笑)。 実の所、このレーベルでここまでハードな物語が展開されているとは思いもしませんでした。 まったく驚いたのなんのって。
不運に叩かれても倒されても不屈の闘志を持って立ち上がる主人公カリエの男前さ(笑)には素直に拍手喝采したい気持ちになります。 彼女のこれからの生き様も非常に楽しみ。
架空歴史物としてもファンタジーとしても主人公の成長物語としても骨太で読み応えのある作品だと思いますので、 未読の方は是非どうぞ。強力にお薦め致します!

(2004/12/04)

天気晴朗なれど波高し。
画像クリックでamazonへ

『天気晴朗なれど波高し。』

名門ギアス家の三男として生まれたランゾットは小説家志望だが、不本意ながら海軍への入隊が決まっていた。 出発前夜、酒場で陸軍との喧嘩騒ぎに巻き込まれた彼は、同じ艦に乗ると云う士官候補生トルヴァン・コーアと出会う…。


飄々として得体の知れないギアス海佐の若かりし頃の話ってんで、一体どんな話になるのやらと訝しんでおったのですが、 なかなかどうして真っ当な青春小説じゃございませんか! かえってびっくりしましたよ…。
乱暴な要約をするのであれば、渋々ながら海軍に入隊した青年が波乱含みの(波乱まみれの?)初航海を経て、 自分の歩く道を見出す話って所でしょうか。年上の女性への淡い恋心、海軍生活の活き活きとした描写、 軍船という閉じられた空間での人間模様そして陰謀などなど、1冊の中に様々な要素が詰め込まれております。 著者のテンポの良い筆致に乗せられて楽しく読ませて戴きました。 それにしても、17歳であの達観振りはやはりと云うか流石と云うか。 入隊する前から引退の事を考えてる士官候補生ってさぁ!(笑)
勿論若き日のトルハーンも活躍しています。底抜けに明るいかと思いきや、 様々な苦難を乗り越えてきた横顔も垣間見せてくれたりして。ランゾットとコーア、 ふたりのかけあい漫才…もとい篤き友情(笑)も見所です。

(2004/12/06)

天気晴朗なれど波高し。2
画像クリックでamazonへ

『天気晴朗なれど波高し。2』

晴れて士官となったランゾットに次なる試練が与えられる。 海神ワーデンに捧げる祭りで芸を披露しなくてはならないのだ。 兄達が昔踊ったと云うグンダホア・ジンガ──この奇妙な舞を奉納(?)する羽目になったランゾットは コーアと共に厳しい練習に励む事となるが…。


グンダホア・ジンガ(爆笑)に惑わされて見失いがちなのですが、 ちょっとしんみりしながらも波瀾万丈で楽しませてくれる話でした。 著者はアホと波瀾万丈を書かせたら右に出る者無しって感じですなぁ(笑)。
今回はランゾットとコーアを巡る女性達が魅力的でしたね!
ガゼッタ公国一の美女ネイ様の再登場も嬉しいのですが、 今回登場したオレンディア嬢の気風が良くて健気な所も良かった〜。 須賀さんの書かれる女性は筋の通し方がきっちりしていて素敵。 オレンディア嬢はランゾットのこれからにも深く関わってくるようなので(本篇にも出てくるのかな?)、再登場が楽しみです。

(2004/12/06)

女神の花嫁
画像クリックでamazonへ 画像クリックでamazonへ 画像クリックでamazonへ

『女神の花嫁』前・中・後編

謎が多かった(と云うか謎ばかりだった)ザカールの国のあり方と人々についてこの話を読んでようやく理解できたように思えます。 特殊な民族だと思い込んでいたザカール人の内部に踏み込んでみれば、彼らには彼らの当然の理があったのだなぁと、 わかりやすい形で納得できました。
私が「流血女神伝」を架空歴史物としてよりもファンタジーとして認識しているのは、 神と人の関わりについて描かれている点にあるのですが、 『砂の覇王』で語られた両者の関係をさらに掘り下げていますね。 神の手の内で操られているのか、それとも自分の意志で選んだ道を歩んでいるのか。
本篇で繰り返し問われるこの疑問がこの作品でも視点を変えて問われています。 もっともっと踏み込んで書いて戴きたいのですが、少女向けレーべルではそうも行かないのでしょうか。 著者がレーベルの制約が無い状況で神と人との物語を書いたら物凄い作品が読めると思うんですけど (物のわかってない読者なので好き勝手な事を云ってます…)。
登場人物達の迷いや苦しみが切実である分、読んでいて痛々しくなる箇所がいくつもあって読んでいるこちらも消耗しました。 特に主人公のラクリゼが人生の岐路において選択しなくてはならない事柄があまりにも苛酷なので読んでるこっちもつらいんですよ。 彼女には幸せになって欲しいのですがどうだろう……。
主軸とは異なる視点で同じ出来事を描写している箇所がいくつかあるので、本篇と読み比べてみるのもまた一興。 物語がよりいっそう立体的に浮かび上がってくるかと思います。シリーズを最初から読み返したくなる衝動に駆られてしまう事受け合い。
蛇足ながら最後に出てくる新米海賊がなかなか良い役どころでした。

(2004/12/07)

暗き神の鎖
画像クリックでamazonへ 画像クリックでamazonへ 画像クリックでamazonへ

『暗き神の鎖』前・中・後編

天真爛漫だったカリエにも背負うものや守らなくてはならないものが出来て、話にますます重みと深みが増しましたね。 そして彼女を脅かす存在が物語にさらに影を落とします。 リウジールがカリエを追い詰めていく辺りは読みながら自分までぞくりとしていましたが、 ザカールの中でも異質な彼の言動にも理由があり、単なる敵役に終らず魅力的なキャラクターに書き込まれていたと思います。 とても印象的でした。
今回は暗い・重い・痛い(精神面も肉体面も)の三拍子揃ったお話で、もう後編は読み進めるのがつらかった……。 登場人物の殆どが大変な事になりましたし。まあ、お笑い担当(?)トルハーンとイーダル王子のお蔭でちょっとは息がつけましたけども。 サルベーンとエディアルドのコスプレ(変装)にも脱力(爆笑)。ああいった状況でも笑いをさしはさむ余裕のある著者に完敗ですよ。
サルベーンと云えば、『女神の花嫁』を読んで評価が上昇してまた下降したのですが、 今回彼が取った行動には素直に拍手喝采。見直したよサルベーン!
次でいよいよ終了なのだそうですけれど、ああこの続きは一体どうなるんだ!と今から気になって仕方がありません。 エティカヤ(とバルアン)はえらいことになりそうだし、ユリ・スカナも大変なようだし、 おそらくこの流れでルトヴィア動乱が始まるんだろうなぁ。 カリエの人生もまだまだ落ち着かずに流転する模様。果たして波瀾万丈はどこまで続くのか?
続きが早く読みたくてたまらない一方で、ずっと終って欲しくない複雑な気分です。 あと10冊くらいは続いてくれると嬉しいんだけど(笑)。

(2004/12/22)

喪の女王 1
画像クリックでamazonへ

『喪の女王 1』

ザカールを脱出し、ユリ・スカナのイーダル王子の元で庇護を受ける事になったカリエとエディアルド。
傷ついた心身を安らかな時間の中で癒していくカリエだったが、やがて束の間の平穏は破られ、ふたりを追う刺客が現れる……。


今までの復習をしつつ、次の大きな流れへ続く巻って感じでしょうか。
舞台はザカールからユリ・スカナへ移り、そして次は何処へ行くのか。
イーダル王子は相変わらずのテンションですが(笑)、彼の中にもなかなか複雑な心情があるようなのでその辺にも興味津々です。
今回のタイトルはそのまま素直に受け取るのならば、バンディーカ女王の事なのかな。『砂の覇王』の時のようにまた裏の意味があるのかもしれませんが。女王陛下もなかなか波瀾万丈な人生をお送りだったようですなぁ。ま、この話に出てくる人たちは皆波瀾万丈な人生を送ってますけれども。
エティカヤ及びバルアンの思惑やら、ユリ・スカナの事情やら、ルトヴィアとの絡みも気になるところ。ミュカは頑張っている様子ですね。
それにしてもラクリゼの誇り高さには胸を打たれましたよ。
『暗き神の鎖』のクライマックスでは一番必要としている者同士が互いを求め合うシーン(※色っぽい意味ではなく)がありましたが、その後そのまますんなりと全てが解決して万事めでたしとならないのはわかってはいますけれど(他の作家さんならともかく、須賀さんのお書きになるものでそういった展開になる事はなかろうと思われますし)、やっぱりちょっと切ないですねぇ。
でも、何だかんだ云ってラクリゼを一番理解しているのはサルベーンなんですな。 こういう関係性も語られているのがこの物語を奥深くしている所以なのではないでしょうか。うおお切ない。イーダル王子じゃなくても口のひとつも出したくなるってもんですよ。たとえサルベーンに厭な顔をされるにしたってさ!(笑)
そうそう、サルベーンとエディアルドの誠実な友情関係(爆笑)は感涙モノでした。エディアルドのボケにはカリエのツッコミが一番なのは云うまでも無いですが、 サルベーンのツッコミ(いじめ?)も冴え渡っているので読んでいて楽しかったな〜。

あ、千人目のクナムに関しては予想していないではなかったのですが、やはりああ来られるとびっくりですよ。うわあ。 早く続きが読みたいです(しみじみと)。

(2005/06/01)

喪の女王 2
オンライン書店ビーケーワン:喪の女王 2

『喪の女王 2』

逃亡の途中で赤ん坊を産み落としたカリエ。エディアルドと共にアルガの実家へ辿り着いた彼女はこれからの身の振り方の選択を迫られる。
一方、ユリ・スカナでは王太子ネフィシカの婚礼の準備が進められ、首都ガンダルクは喜びに満ちるのだが、その裏では密かに国を揺るがす策謀が巡らされていた。
姉の婚儀に里帰りしたグラーシカはその祝いの席での衝撃的な宣言に立ち会う事となり……。


表紙は王家の三姉弟ですね〜。いや綺麗どころが揃うと華やかで良いですなぁ!
この巻からユリ・スカナ陰謀篇に突入ってな感じでしょうか。それに伴って新キャラ参入ですね。グナウスキー侯爵やフィンル君は今後の物語の進行に大きく関わってくるので動向が非常に気になります。そしてネフィシカ王太子とサルベーンの過去の経緯(とその結果)がこんな形で出てくるとはー!と驚きつつも続きが早く読みたくて悶絶中です…………。うおお。

ところで昔から母は強しとよく申しますが。
精神面だけでなく肉体面でもますますたくましくなったねカリエっち……(しみじみと)。
元々の素養を考慮に入れても、怪我人救助の場面はなんと云うか少女小説のヒロイン にはあるまじき行為 とは思えない大活躍振りでした(笑)。
作中であれだけ美形な殿方達に囲まれていても逆ハーレム状態や熱烈ラヴロマンにならないのは主人公がある意味一番オトコマエだからなのではあるまいかと思わず邪推してしまいましたヨ……。個人的にはラヴに流れっ放しにならないスタンスが心地良くもあるのですけれど。
少女小説にあるまじきと云えばエドのお洗濯姿もクールビューティにあるまじき恰好ではなかったかと(大笑)。いや素敵だと思いますけど! 実際ちょっとときめきそうになったしネ!(←それってどうなのか)

時にロイのタウラさまへのプロポーズ大作戦(もしくはダイエット大作戦)は一体どうなってるんでしょうか。気になるー。

(2005/11/01)

喪の女王 3
オンライン書店ビーケーワン:喪の女王 3

『喪の女王 3』

フィンル父子を道連れに厳しい森の旅を続けるカリエ一行の元にユリ・スカナの兵士らが現れた。彼らはフィンルの素姓を告げ、ミゼーマ宮へ迎え入れると宣言する。
その出自に驚くカリエたちだったが、事実を受け入れられないフィンルは同行を激しく拒む。彼の気持ちに呼応するかのようにセーディラは恐るべき力を振るい、兵士たちを撃退するのだったが……。


まーたこんな所で終ってるしな…………(ぼそり)。

周囲の大人たちにとって利用価値の高過ぎるフィンル君の事がちょっとどころでなく心配です(涙)。彼の存在は今後ユリ・スカナに波乱を巻き起こすのでしょうが、どうなっちゃうんでしょうかねぇ。
千人目のクナムとしての強大な力の片鱗を見せ始めたセーディラもまた利用価値の高い存在でありますし、お子たちの行く末が不安です。そう云えばアフレイムは元気なのかしら。
あとはサルベーンの動向にも目が離せないかな。彼の内面に根深く張ってしまっている女神の呪縛はいつになったら解けるのでしょうか。メナイク猊下とのエピソードを読む限りでは彼の業の深さはどうにもならないのかとも思えますけれど。

で、今回ようやくバンディーカ女王陛下の過去話が多めに出てまいりましたね!(嬉々)
著者の後書きにもありましたが、これは外伝として2冊くらいの分厚い本で読みたかったですよう!! 自らの美貌と才覚を武器に権力者への道を進んでいく女傑の半生記。ああうっとり。
何で出版して下さらぬのかーって、やはりレーベル上の制約かしらどうかしら(涙)。絶対面白いのにー。これだけのページ数でまとめ上げているのは見事ではありますが、勿体無い気持ちの方が先に立ってしまいました。 今回はグラーシカ姉上の父親のエピソードも出てきましたが、イーダル殿下の父親はあの人なのかなぁ……。
「喪の女王」の裏の意味も明かされましたし、ますます続きが気になるところです。

そうそう、カリエの久し振りのコスプレ(?)は修道女でしたな。修道院エピソードも堪能しました。これももっと長く(以下略)。
今後は神と人との共存を模索する方向になって行くのか。
しかし、ライトノベルでこれだけ色々な宗教を出してくる作品って珍しいのではなかろうかと感じましたがどうなんでしょう。
エドの台詞はまたファンの間に嵐を呼びそうな気がします(笑)。個人的にはカリエとエドがまとまる事にさほどの関心を抱いていないのですけども(こういうのは少数派なんだろうね……)、ふたりとも幸せになって欲しいとは思ってます。頑張れ!

ラストではいよいよカリエとある人物が衝撃の御対面でございましたが、続きは夏までお預けだそうです〜(涙)。

(2006/02/01)


もくじへ