縞田理理


●霧の日にはラノンが視える
画像クリックでamazonへ 『霧の日にはラノンが視える』(bk1)
新書館ウイングス文庫 刊

スコットランドの小さな村、クリップフォードにはある伝説があった。 七番目に生まれた子供は妖精の呪いによって狂気に陥ると云うのだ。 「呪い」によって叔父を失ったラムジー・マクラブもまた七番目の息子だった。 自らの呪いを解く為に村を飛び出しロンドンへとやって来たラムジーは、 窮地を救ってくれたジャックという青年の元に身を寄せるのだが、彼の周りでは奇妙な出来事ばかりが起こる。 そしてラムジーの身にも異変が起こり……。


現代の英国を舞台にした妖精譚って事で以前から読みたかったのですが、 全4巻で完結したのを機に購入してみました。面白かったです。
色々な要素が詰め込まれていて、語りも上手いのでするすると楽しく読ませて戴きました。 ケルト伝説の取り入れ方や設定の使い方も巧みですね。 民話などでよく出てくる「七番目の息子」にも納得の行く説明が施されていて、思わず「ほほ〜」と感心してしまいました。
勿論、主人公のラムジーをはじめとした登場人物達も魅力的です。 謎めいたジャックも良いのですが、ワタクシの目下のお気に入りはガタイが良くて荒っぽいのに実は面倒見の良いお人好し(?) のレノックス。
同時収録の続篇「晴れた日は魔法日和」に出てくるラムジーの幼なじみのネッシーも良いですね〜。
可愛い! 凄く可愛いよネッシー!!  ああんもう、どうしてラムジーはネッシーの乙女心がわからないのかしら?などと気を揉みながら読んでましたよ(笑)。
このふたりはこれから先にも活躍してくれそうなので続きを読むのが楽しみ。
   

(2005/06/05)

●霧の日にはラノンが視える 2
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『霧の日にはラノンが視える 2』 (bk1) (楽天ブックス)
新書館ウイングス文庫 刊

「おまえは……本当は、だれなの?」
 彼は穏やかに微笑んだ。
「僕はジャック・ウィンタースだ」
「おまえは、自由なの……?」
「働くのも、野垂れ死ぬのも自由だ。尤も、死ぬのはラムジーたちが許してくれないだろうけどね」
「おまえは、幸せなの?」
「幸せなときも、そうでないときもあるよ」
「どんなときが幸せ……?」
「自転車で風を切るとき、ひとりで本を読むとき、友人と語らう時は幸せだよ」
「幸せでないときは?」
「二度と会えない相手のことを思うとき……だろうね」
 彼は寂しげに目を伏せた。

(同書P250〜251より引用)


「妖精たちの午後」、「ネッシーと《風の魔女》」、「キス&ゴー」の三本が収録されています。
レノックスの多忙な日常にラムジーの初仕事。そして新キャラクターも続々参入して来ましたね。
掴み所のない盟主ランダルや悩み多き少年ケリ、風の魔女シールシャに、 スケベおや…エロ魔術……いやいや大人の魅力が満載なフィアカラ。 彼らがこれからどんな物語を織り成していくのか非常に楽しみです。あとガブリエルのわんこたち!  うーわー、めっちゃくちゃ愛くるしい〜(悶絶)。はやく大きくなって活躍してね!!
そして今回は故郷喪失者の哀しみが散りばめられていたのが特に印象的でした。 ランダルは実利一辺倒の人物なのかな?と思ってましたがそうでもないようで。色々な秘密を秘めていそうです。
本篇では無理でしょうが、先代盟主とランダルの話は読んでみたいな。

それにしてもやっぱり良いですなぁ、レノックス!
面倒見が良くて苦労性で(おまけに心配性?)予想外の趣味を持ち合わせた見た目とのギャップに心底惚れましたわ。
もともと意外性を持ったキャラクターに弱いのでジャックもかなり好きなんですけど、 個人的にツボなのはレノックスなんですよねぇ。でもお世辞にもスーツが似合うとは云ってあげられない(ごめん)。 似合わない所が最高なんだけど(笑)。
彼には幸せになって欲しいです。つーか絶対幸せになれよな!(←何様か)
いつか全てを受け入れてくれる素敵な人に出会える事を祈ってますよホントに。

さて。続く「ネッシーと《風の魔女》」ではワタクシ待望のネッシー再登場でしたよ!(興奮)
 ネッシー本当に可っ愛いよ!! もうどうしましょうどうすればいいんですか(どうもせんでいい)。
女の子ふたりが楽しげにお喋りしている様子はいいですねぇ。心が非常に潤います(笑)。 そしてこの短篇を読んでいてワタクシもコヴェント・ガーデンに行きたくなりました。賑やかで華やかで楽しいんだよねぇ。
3話目ではラムジーの天然振りが微笑ましいと云うか罪深いと云うか。
まだまだ前途多難なようですが、頑張れネッシー。応援してるぞ〜。

(2005/06/17)

●霧の日にはラノンが視える 3
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『霧の日にはラノンが視える 3』(bk1)
新書館ウイングス文庫 刊

クリップフォード村で妖精騒動が起こり、レノックスは真相を確かめる為にスコットランドへと向かう。
一方、ロンドンのランダルは魔術師フィアカラの巧みな煽動により盟主の座を剥奪され、幽閉される。 ランダルの働きによりかろうじて均衡を保ってきた《同盟》は崩壊の危機を迎えた。
ロンドンに戻ったレノックスは仲間からの襲撃を受け重傷を負いながらも、ラムジーとジャックの身を案じ彼らに危険を報せようとするのだが……。


次の4巻で完結って事で、起承転結で云えば「転」にあたるのでしょうか。
1〜2巻がほのぼのとした色合いを持った話だったので(それでもつらかったり重かったりする部分はありますけれど)、 次々と起こる事件に登場人物たちが翻弄されていく様には読んでいるこちらもはらはらしておりました。
今回は荒事担当のレノックスが絶対安静(全身ボロボロに近いってぇのに、減らず口が叩けるあたりが漢だね!) だった為か、ネッシーがすっかり肉体労働担当でしたな。純情可憐な乙女なのに。でも名前通りの剛腕(剛脚?)振りには拍手だ(笑)。 頭脳担当のジャック(つーかカリスマ担当?)もですが、登場人物たちの役割分担の配置が上手いなと思います。 それぞれの弱い部分を補い合っている関係が良いですね。頑張れ混成チーム!!
緊迫している展開ながら、“それじゃ全部じゃないか。”(P100)と ランダルがレノックスの秘密を握っている事を匂わせるシーンには思わずふきだしてしまいましたよ。

同時収録の「この街にて」は、ジャックと彼の養育係カディルの過去をメインにした短篇。 ふたりの絆の強さと互いを思い合う気持ちの深さ、そしてその齟齬が何とも切なかったです。
それにしてもジャックってばお育ちが高貴なのに生活力があって堅実だ〜と感心しましたよ。 守るべき者があってこそとは云え、なかなかできる事ではないよなぁ。年若いのに偉いよ!  アーニーの懐の大きさにもほろりときました。胸の中にお日さまと同じ位あったかいものを持ってるんですね、アーニーってば。
あとはトマシーナ嬢との出会いにも触れられていたのがなんとも心憎かったです。

残りあと一冊となってしまったのでちょっと寂しいなー。
ジャックたちの物語は果たして大団円を迎える事ができるのでしょうか。

(2005/07/11)

●霧の日にはラノンが視える 4
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新書館ウイングス文庫 刊

いよいよ最終巻。
三巻からの続きに加えて最終巻って事で、読み手を引き付ける力が一番強かったように思いました。はっきり申しまして大満足です。この作品と出会えて本当に良かった!
物語の収束に伴って様々な謎が明かされ、ばらばらだったように思えた出来事にも関連性があった事がわかります。うっかり読み流してしまいそうなエピソードにも重要な意味があったりと、なかなか油断のならない展開でした。漫然と眺めていた絵に込み入った模様が浮かび上がって来たような不思議な驚きを味わえて幸せ。
今回一番凄いなぁと思ったのはやはり巨大ストーンサークルと《星の銀輪》でしょうか。
一巻でのラノンのヴィジョン、二巻の妖精行列も良かったのですが、インパクトの点ではやはりこの巻の《星の銀輪》が一番でした。イメージの壮大さにはただただ圧倒されてしまいましたよ。こういった大がかりな舞台装置は筆力が無いと薄っぺらく書き割りの様に感じてしまうものですが、もともとヴィジョンの使い方が印象的かつ的確な作家さんなので、その点でも申し分のない実力を見せて下さったと思います。ファンタジーファンとしてはもう骨抜きでメロメロ(笑)。読後しばらくは余韻に浸りっ放しでした。
作中でのバラッドの使い方も良いですね。一連ずつを織り込みながら盛り上げていく手法が見事でした。叶わないとはわかっていても、是非ともマクラブ夫人の歌声で聴いてみたいものです。

登場人物達がそれぞれの道を歩き出すラストは後味が良くて爽やかでした。ジャックの選択の潔さはやはり好ましいです。唐変木でお堅い彼ですが、良い意味での頑固さを持っている所が素敵。しかし怜悧な頭脳のジャックもランダルの老練さには敵わないあたりがまだまだ青くて良いですな(笑)。やっぱしランダルは喰えない人物だ〜。あと、レノックス。ちょっと残念な出来事もありましたが、幸せになれるように祈ってるから頑張れよ〜!

かなり入れ込んで読んでいたシリーズなので、完結まで読めて嬉しいのと同時に凄く寂しかったりもして。でも、ロンドンに行けばなんだか彼らに出会えそうな気がします。通りがかった花屋さんで人懐っこい微笑みを浮かべた少年を見かけたり、地下鉄のホームでガタイの良い大男とすれ違ったり。ふらりと入った古書店でヒナギクのような睫をしたお嬢さんにお会計をしてもらったりできるんじゃないかな〜、あ、勿論スコットランドでのお泊りはファームハウス希望ですよ!と色々想像(ほぼ妄想)してしまいます。私にとって彼らはそれだけ存在感があったものですから。
まだまだ読んでみたいエピソードはございますが(ランダルと先代盟主の話とかケリの御両親の馴れ初めとか)、欲を云い出すとキリがありませんので自分の中に留め置く事にしておきます(ってここに書いてりゃ世話はない)。

読んでいる間ずっとロンドンとスコットランドの空気を感じられた作品でした。ファンタジーファンには勿論、英国好き、民間伝承やケルト音楽好きな方にもお薦めかな。
傾向として全く同じではないのですが、O・R・メリングとかチャールズ・デ・リントのジャッキーのシリーズがお好きな方はお気に召すかと思うんですがどうでしょう。
ともあれワタクシはこのシリーズ大好きですんで、勝手に大プッシュかつ応援させて戴きます〜。

次回作も楽しみにしています。次はどんなお話を読ませて戴けるのかしら。

(2005/07/17)


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