恩田陸


●光の帝国─常野物語
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集英社文庫 刊

特殊な能力を持つ常野(とこの)一族を巡る物語。
連作短篇集と云っていいのかな。
一作一作の主人公は違っていますがそれぞれの作品が密接にリンクしています。
純粋に短篇集として楽しむと云うよりも、これから書かれるであろう長篇作品のプロローグとして読んでしまいました。 『三月は深き紅の淵を』『麦の海に沈む果実』との関わりの様にここからまた読み応えのある長篇が生まれてくるのでしょうね。
常野一族の皆様はなかなか魅力的な方ばかりなので、彼らに再会できる日が楽しみです。
一族の能力のひとつ、“しまう(本でも譜面でも覚えた記憶を忘れない能力)”は私も欲しいなぁ…。 故に一番好きな話は「大きな引き出し」でした(願望丸わかり・笑)。

(2003/02/10)

●蒲公英草紙―常野物語
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集英社 刊

 自分が幸せであった時期は、その時にはわかりません。こうして振り返ってみて初めて、 ああ、あの時がそうだったのだと気付くものです。人生は夥しい石ころを拾い、背負っていくようなものです。 数え切れぬほど多くの季節を経たあとで、疲れた手で籠を降ろし、これまでに拾った石ころを掘り起こしていると、拾った石ころのうちの幾つかが小さな宝石のように輝いているのを発見するのです。 そしてあの幾つかの季節、あのお屋敷で過ごした季節が私にとってその宝石だったのです。
(同書 P7〜8より引用)


恩田さんの作品がいつもどこかノスタルジックなのは、過ぎ去った出来事を美しく切り取って語る手法が巧みだかならなのかなと引用部分を読んで感じました。
勿論、全てが美しいものだけで構成されている訳ではないのでしょうが、過ぎて行った時間を懐かしむ気持ちの中に甘さとほろ苦さが伴われているからこそ、その一瞬一瞬が鮮やかに思えるのかもしれません。
…って、何が云いたいのか自分でもよくわかりませんが(苦笑)。

内容に関しては下手に色々書くとネタバレしそうなのでちょっとだけ。
東北地方のとある集落の人々とその暮らし、そこで起こった事件がひとりの少女の視点を通して語られます。
峰子の柔らかな語り口がほのほのと優しい気持ちにさせてくれましたが、最後の方では時代の大きな変化に押し流されてしまう哀しみが語られていて切なかったです。
作中で真面目な書生が裏心無く本心から云った言葉、そしてその言葉の真の恐ろしさを悟っていた画家のやりとりを入れる辺りが著者の一筋縄ではいかない所以なのでしょうね。いやはや。

恩田さんの作品の全てを愛する熱烈なファンとはとても云えないワタクシですが、常野一族はやっぱり好きだなぁ。穏やかな佇まいと不思議を纏っていながら、ふうわりと心の中に入ってくるような人たち。
さて、春田一家の特別な能力と云えば「しまう」ことですが。
今回は「しまう」ことよりも、しまったものを取り出す事に重点が置かれていましたね。
光比古くんが皆の前でしまったものを取り出してみせたシーンには、もうまんまと泣かされましたよ……。他にも結構泣かせのシーンはありましたが、やっぱりここに一番泣かされたなぁ。

ラストはちょっとばかり座りがよろしくないかなぁと思わないではないのですが、常野一族に再会できた喜びが大きかったのでまぁいいかと。
また彼らに会える日を楽しみにしています。次は何年後だろうか(笑)。

(2005/06/13)

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