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『ねこのばば』
畠中恵 著、新潮社 刊
「どうして若だんなご自身が、上野くんだりまで行くんですか。小丸のことにかこつけての遠出にしか、思えませんが」
「どうしてとは、私がいいたい言葉だよ。寛朝御坊がいるから駄目だと言ったのに、仁吉も佐助もついてきちゃうんだから」
三人は仕立てた船で、隅田川を遡ってゆくところであった。佐助が同行は当然のことだと、胸を張っている。
「あたしらは若だんなを、一人で上野へ行かせはしませんよ」
「例えば松之助兄さんに、一緒に来てもらってもよかったんだし」
「虎や獅子が襲ってきたら、松之助さんでは若だんなをかばえない。駄目です!」 「……仁吉、お江戸に虎はいないよ」
(同書 P105〜106より引用)
若だんな、相変わらずの溺愛されっぷりです。
仁吉の中では上野はサバンナと同じ位危険な場所に認定されてるのか?(笑)
上のやりとりは表題作の「ねこのばば」より。
馴染みの猫又おしろから猫又になりかけの猫、小丸を救い出して欲しいと頼まれた若だんなが上野広徳寺に捕らわれた小丸を引き取りに行こうとするのですが、当の寺では松の木の下で僧が縄もないのに首をくくって死んでいたという事件が起こり、若だんなは小丸と引き換えに事件解決に一肌脱ぐ羽目になるってな感じの話です。
やっぱりこの著者の持ち味は長篇よりも連作短篇の方が生かされますね。
収録作の中では、佐助の過去話「産土(うぶすな)」(あんな過去があるんなら若だんなに対して過保護になっても仕方がないかなぁ。あと、語りの騙しの手法に「あれれ?」と思いながらもころっと騙されましたよワタクシ)と、若だんなの親友栄吉の妹、お春ちゃんの縁談話をめぐる「たまやたまや」が切なくて良かったです。若だんなが「家も金も要らぬほどの思い」に出会える日はいつになるのでしょうか。
ま、出会っちゃったら出会っちゃったで凄く大変そうだけどね(笑)。
(2005/09/02)
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