須賀敦子


●ユルスナールの靴
画像クリックでamazonへ 河出書房新社 刊 (画像は白水社版

思い出したように借りてくる須賀敦子さんの御本。
まとめて借りてきてもいいんですが、勿体無くてちょっとずつ読んでます。

ベルギーの作家マルグリット・ユルスナールに関する評伝かと思って読み始めましたが、読み進めるうち、ユルスナールの、彼女が書いたハドリアヌス帝の、錬金術師ゼノンの、そして須賀敦子の旅の軌跡を辿った本だったのだと納得。 須賀さんの本はいつもそうなのですが、書き出しがとても素敵なのです(以下上掲書P9より引用)。

 きっちりと足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。 そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。 行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていないのは、あるいは行くのをあきらめたのは、 すべて、じぶんの足にぴったりな靴をもたなかったせいなのだ、と。

ユルスナールの生涯と彼女の描いた登場人物達の生涯。そしてそれを辿る須賀敦子の旅。 それら全てが分かち難く結ばれ、美しい文章で綴られた『木立のなかの神殿』はこの本の中のクライマックスだと思います。
現実の旅と物語の中の旅、さらには須賀敦子の思い出と夢想(或いは夢想の方が須賀敦子を訪なったのか)が描かれている後半部は、 自分までその中に入り込んだような錯覚を抱いてしまう程です。
溜息が出る程綺麗な文章に浸るあまり、いつまでもこの章が終らなければいいのにとまで思ってしまいましたよ。

ユルスナールの作品を読んでいなくても、須賀さんの概要が非常に優れているのでこの本を読むにあたっては全く問題はありません。
しかし、「ハドリアヌス帝の回想」(白水社刊)は自分でも読んでおこうと決心。「黒の過程」は読んだんですけど、こちらはまだ未読なんですよ。
美しい風景と美しい言葉を味わいたい方には是非おススメしたい1冊。

(2004/03/09)


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